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京都地方裁判所 昭和45年(ワ)1003号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(1) 本件事故現場は、別紙図面のとおり、国道一号線の上り追越車線上である。

被告国の出先機関である建設省関東地方建設局横浜国道工事事務所は、従来簡易舗装のまま使用されてきていた右国道の本舗装工事を、訴外大成道路株式会社に請け負わせ、昭和四四年一一月から翌四五年三月二〇日までの予定で施工させていた。

(2) 当夜の工事施行区域は、本件事故現場から西方約六五〇メートルの地点までであつて、同訴外会社は、上り車線のうち追越車線だけを、西方から東方に向つて順次本舗装工事を進めていたものであつて、事故現場はその終点附近に位置していた。

(3) 工事内容は、まず路面にアスファルト乳剤を撒布し、ついでアスファルト合材を均等の厚さで敷き広げたあと転圧して終了するものであつて、本件事故当夜午後九時頃から始つた前記乳剤撒布は、事故発生時には、すでに、事故当夜の工事区間の工程をすませて本件事故現場まで進行していた。

(4) 工事中の路面は、アスファルトですべりやすくなつており、車両の通行は危険であつたので、右訴外会社は、工事区域の起点の手前に種々の予告標識を設置したほか、蓄電池で点滅する赤色電灯が頭部に取りつけてある高さ一メートルの赤色保安灯一二〇本を、工事区間全域の上り走行車線と追越車線との境界線上に立てて追越車線が通行禁止区域であることを表示する措置をとつた。この赤色保安灯は、事故現場附近では、大体五、六メートルおきに立てられ、点灯していたので、上り走行車線を東進する車両の運転者には、赤色保安灯が一直線に並んでいることから、追越車線が工事区間になつていることが十分判つた。

(5) もつとも、本件事故現場は、作業灯などの照明がなく、アスファルト乳剤の撒布作業は下請人が当つていた関係上、相手車には作業灯の設備がないため暗かつた。そうして、たまたま本件事故現場附近の街灯も消えていたので、相手車の尾灯附近で点滅しているハザードランプと作業員が携帯していた赤色の懐中電灯一個の明りでようやく相手車の存在が認められるに過ぎなかつた。

(6) 原告会社の従業員である訴外桐生広は、事故車を運転して、本件事故の日の午後一時三〇分頃、名古屋市を出発し、千葉県茂原市に向つていたが、途中午後一〇時頃茅ケ崎附近でビール大びん一本を飲み、体内のアルコール量は翌六日午前〇時四〇分頃でも、なお呼気一リットルについて0.25ミリグラムを超える程であつたが、そのまま事故車の運転を続け、本件工事区間の入口手前の標識に従つて、上り走行車線上を、時速五〇キロメートルで東進した。

(7) 桐生広は、本件工事区間に入り、自車の右側に赤色保安灯が一列に並んで点滅していること、工事区間に撒布されたアスファルト乳剤のため工事区間が黒く光つていたことを認めながら運転を続けた。

(8) 桐生広が約五メートルの間隔で追従していた軽四輪自動車の前方には、フルトレーラーが先行していたので、桐生広には進路右前方の追越車線の様子は全く判らない状態であつた。

(9) 桐生広は、本件事故現場手前にきたとき、先行の軽四輪車と接近しすぎたため、同車との追突をさけようとし、先を急ぐあまり、右前方を確認しないばかりか、工事区間が終つたのかどうかも確認しないで、ハンドルを右に切つて追越車線に出て行つた。

桐生広は、このとき、追越車線に作業中の相手車を認め、あわてて急制動の措置をとつたところ、撒布されたアスファルト乳剤で車輪が滑り、相手車に点で追突した。

桐生広が追越しをかけた地点と追突した地点との距離は約24.5メートルである。

(二) 右認定の事実からすると次のことが結論づけられる。

(1) 本件事故当夜の工事は、上り追越車線中約六五〇メートルの工事施行区間の本舗装工事である。

(2) 右本舗装工事の請負人は、工事施行区間の入口の手前に工事中の標識を設け、上り走行車線と追越車線との間には、一二〇本の赤色保安灯を約五、六メートルの間隔で一列に並べて点灯していた。

そのうえ、相手車の撒布していつたアスファルト乳剤で、工事区間は黒く光つていた。

(3) 上り走行車線を走行する車両の運転者は、この一列に並んで点滅していた赤色保安灯と、黒色に光つていた工事区間の路面とを見ながら、運転を続けて行く限り、工事施行区間であることは、たやすく認識できた。

(4) 桐生広は、工事区間に入つたとき、工事施行区間であることを知り、赤色保安灯の点滅を見ながら、加害車の運転をしていたのであるから、そのまま運転を続けるべきであつた。それだのに、先行車の追越しに気を奪われ、工事区間が終つているかどうかの確認を怠り、ハンドルを右に切つたもので、この追越しは、まことに無暴操縦といわなければならない。

(5) このようにみてくると、本件国道の工事施行区間を標示する方法は、本件事故現場にそくして観察したとき、十分講じられていたもので、本件国道は、道路として通常具有すべき安全性に欠くところはなかつたとしなければならない。従つて、被告国には、本件国道の管理に瑕疵はなかつた。

本件事故の原因は、もつぱら桐生広の前記無暴操縦に帰せられなければならず、これを、被告国に転嫁することは到底許されない。

もつとも、本件事故現場附近の照明は完全でなかつたことが認められるが、桐生広の右無暴操縦に着目したとき、このことは、本件事故発生と無関係である。

(古崎慶長 富川秀秋 飯田敏彦)

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